■book review■　【国内は行の著者】

『ピーコ伝』

ピーコが恋愛や生き方、生い立ちや家族について、また「評論」観などを裸になって語る自伝的一冊。聞き手＝糸井重里。

著者： ピーコ
出版：日経BP社
サイズ：四六判 / 273p
ISBN：4-8222-4256-0
発行年月：2001.11.1

　ほぼ日（ほぼ日刊イトイ新聞）掲載の「ピーコを、チェック。杉浦克昭自伝的対談。」を発展的に単行本化したもの。ピーコこと杉浦克昭、聞き手は糸井重里の対話形式―聞き手は質問したり小さく突っ込んだり確認したり、と話の大筋を誘導しつつも言葉少な目である。

　面白いわ興味深いわ示唆に富んでいるわ、で一気に読み切る。えっと例えば「オカマ・恋愛・セックス・自立」の章の、「セックスって自信ないし、必要なの？」から「ひとりって、すばらしいことです」は本書の白眉のひとつでは。セックスは「愛の確認」じゃなくて「欲望の確認」では、とか(p.41)。（あるひとのことを好きになると）「そのひとの体を知るよりも、こころの奥のほうを知りたいと思う」(p.44)とか。

　評論について述べておられることも面白い。「わたしもおすぎも、ただ自分の好ききらいを言っているだけ」(p.253)という言葉にはなるほどそういえばそうだなーと思う。それに続くピーコなりの評論／批評の極意（？）やスタンスも、うなずけるものだった。…参考にしよう。

　自律。

　だからね、「人前できれいな顔をするのが生きていることじゃないんだ」って自覚しつつ、「自分の中にもきたないものがある」って自覚しつつ、「でも、どうやったらきたない自分をさらけださないで身ぎれいに生きていかれるか」って考えて、実行に移す……。そんな生き方こそが、自分を律して生きることだと思うの。

（p.267 わたしはわたし、あなたじゃないわ）

　わたしも、そうやって生きていきたい。自己満足だけどね、たぶんわたしも。

　以下、関連的に雑感する。堀辰雄・立原正秋・向田邦子。中野翠。田辺聖子。山田詠美。池波正太郎。吉本ばなな。中島みゆき。スー・グラフトン（『キンジー・ミルホーンシリーズ』）。最近読み始めている江國香織さんもそんな感じだし、そしてピーコ。村上春樹もちょっとその路線だな。…と、とりあえず思いつくままに、自分の好きな作家さんやソングライターでひとつ共通するものがあるとわたしが思っている方々を並べてみた。

　以上あげた方々は、印象として硬質な方であったり柔らかい方であったりはする。作風もいろいろだ。しかしみな、美意識や価値観を強くどこかに持っておられ、心象的にだったり生活スタイルとして実践的なそれだったりはするけれども「自分を律して生きている」（ところがある）方である。また、作品は倫理的で真摯さがある。最終的には生を肯定する。贅沢ではあるけれどもストイックでもあり、分をわきまえてはいるが生活をとことん楽しんでいる…。といったような認識をわたしはこれらの方々の作品（および、かいま見える彼らの生活信条）に対して持っているのである。

　その点で自分なりにけっこう筋の通った読書傾向と好みだな、と思っているのだけれども、そこんとこ、なかなか他の人には気づいてもらえないしわかってもらえないなあ。さっきも夢中で読んでたら表紙の向こうからツレがひょこっと顔を覗かせて「『ピーコ伝』まで読むの？」などと言うしさ。(Oct.31,2001)

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