■cinema■comment 【シッピング・ニュース】
シッピング・ニュース THE SHIPPING NEWS
- 監督 ラッセ・ハルストレム
- 製作 アーウィン・ウィンクラー、リンダ・ゴールドスタイン・ノールトン、レスリー・ホールラン
- 出演 ケヴィビン・スペイシー、ジュリアン・ムーア、ジュディ・デンチ、ケイト・ブランシェット、ピート・ポスルスウェイト、スコット・グレン、リス・エヴァンス、ジェイスン・ベアほか
- '01 ミラマックス製作
- 112分 シネマスコープ
●20020811 レンタルDVDで、日本語吹き替え・字幕、オーディオコメンタリー
レビュー Amazon.co.jp
何をやっても駄目な中年男クオイル（ケヴィン・スペイシー）は、妻の事故死を機に、伯母のすすめで娘を連れて祖先の地ニューファンドランド島へ赴き、そこで港湾（シッピング）ニュースの記者として雇われながら生活することに…。
ピューリツァ賞や全米図書賞を受賞したE・アニー・ブルーの小説を原作に、人間の人生と魂、その再生を歌い上げる名匠ラッセ・ハルストレム監督のヒューマン・ドラマ。先祖の寓話がもたらすファンタジーと厳しい現実との対比が巧みな自然描写によって一目で伝わる熟達した演出技術の妙。脇に至るまで行き届いたキャスティングの良さ。そしてアイリッシュ・テイストで紡ぎ上げるクリストファー・ヤング音楽の素晴らしさなど、ここ最近流行りの癒しのドラマとは一線を画した真の人間ドラマの機微をとくと味わえる逸品である。（的田也寸志）
舞台カナダ・ニューファンドランド島と、もうひとつのロケ地として使われたノヴァスコシアの荒涼として厳しくも美しい自然、オスカー受賞者・候補者がそろった名優たちの演技がたっぷり味わえる落ち着いた深い映画である。壊れた心の修復、誇りと自信の獲得、ルーツ探し、家族の再建、悲しみからの立ち直りなどさまざまなテーマを含んだこの作品、地味だが多くの人にもっと観られて良い映画ではないか。映画化までの紆余曲折もあって（このあたりの経緯はシッピング・ニュース日本公式サイトのプロダクション・ノートに詳しい）、このフィルムに製作関係者の愛と情熱が籠もっているのがよくわかる。シリアスなテーマながらユーモアもあり、完成度が非常に高い良質な作品、印象に残る映画といえよう。オーディオコメンタリーの最後でラッセが「１コマたりとも後悔はないよ」と言っているのは本音だろう。
でも、うーん、「わたしはこういうの駄目でした、苦手です」といわざるを得ないのが残念だ。本編吹き替えと字幕、それとオーディオ・コメンタリーで都合３回通しで観て「苦手ですみません」という感じではあるのだけれど。なにもかも「うますぎ」て、しかも「うまさに作為が見える」ことに抵抗を感じてしまうのだ、と思う。
映像にも音楽にも細心の注意が払われ、色彩もきれいでひとつも無駄なシーンがない。どのカットを切り取っても絵になり、俳優の表情一つ一つに含蓄と意味がある。通してじっくり観て、破壊や絶望をくぐり抜けたところに救いを得るという本当の意味でのカタルシスが味わえる希有な作品でもある。いかにもハルストレムらしい作品だ。でもしかしそこにあまりにもたくさんの「うまさ」をみてしまう。これは「サイダーハウス・ルール」でも感じたことだけれども、原作を映画化するにつけその手法が巧みに過ぎるのではないか。映像として観てわかりやすいように、小説を「きれいに」まとめるその手段。小説では複雑な構造だったり行きつ戻りつして語られている、または膨大なことばを尽くして語られていたりする。その世界を映画にしたときに、観客が混乱せぬようにと進行を整理して一本道に仕立てる。そしてつまり世界を明快な寓話にするのだ。寓話的に単純化しわかりやすくしてくれており、だから無駄なものがない映画のシーンの一つ一つは理にかなっていて、だが理にかなっているだけに逆にすべてのものに説明がついてしまうつまらなさ。この映画が描いているものは非常に深く、ときに苦しみと悲しみに満ちている。本来深みは底に潜るほど暗く苦しいものなのに、ハルストレムは、美しく明るいライトで照らして我々に見せてくれてしまう味気なさ。
これらの点は撮影の技術的な面にもいえることだ。たとえば、ロケにおいても岬に原作ぴったりの家を作り、見事なCGで息を呑むような絶景や詩的な光景を見せ、ノヴァスコシアや半島の風景をニューファンドランド島や小島にする、それらは現在の映画ビジネスから考えると当然駆使されるべき技術であろうがしかし、その職人技的な巧さは見方を変えれば「都合しすぎ」のあざとさでしかない。
もっと映画は、画面は、複雑で不自由であっても良いのではないか、とわたしは思う。
ジュリアン・ムーアのノーメイクの美しさには心打たれた。ニューファンドランドの自然のような美しさであった。
| 2001年／アメリカ映画 カラー １時間52分 ミラマックス 配給：アスミック・エース／松竹 |
| THE SHIPPING NEWS オフィシャルサイト（英語） 日本公式サイト |
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